大阪地方裁判所 昭和34年(行)76号 判決 1963年4月04日
大阪市生野区猪飼野東五丁目八番地
原告
寺中達夫
右訴訟代理人弁護士
松井昌次
大阪市東区大手前之町
被告
大阪国税局長
塩崎潤
右指定代理人
杉内信義
同
坂田暁彦
同
畑中英男
右当事者間の登録税認定処分に対する審査決定取消し等請求事件について、当裁判所は昭和三八年一月一二日に終結した口頭弁論に基づいて次のとおり判決する。
主文
被告が原告に対し昭和三四年九月一七日にした審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。
大阪法務局天王寺出張所長が昭和三三年八月二三日別紙目録記載の不動産につき認定した課税標準の価格を金七、七七四、五〇〇円と変更する。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は三分し、その二を被告、その余を原告の各負担とする。
事実
(双方の申立)
原告は、「被告が原告に対し昭和三四年九月一七日にした審査請求を棄却する旨の決定を取消す。被告は大阪法務局天王寺出張所長が昭和三三年八月二三日別紙目録記載の不動産の課税標準価格を金八、七二三、五〇〇円と認定したのを金四、二九五、二五〇円と変更せよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
(原告の主張)
一、原告は大阪法務局天王寺出張所に対し昭和三三年八月二三日別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という。)の売買による所有権移転登記手続を申請するに際し、登録税の算定基準としての本件不動産の価格を金四、二九五、二〇円と申告したところ、同法務局登記官吏はこれを金八、七二三、五〇〇円と認定した。
二、原告は右認定に不服であつたので、被告に対し同年九月一五日審査の請求をしたところ、被告は昭和三四年二月二六日右請求が登記完了後になされたものであるとの理由でこれを却下する旨の決定をした。そこで原告は被告を相手として同年五月二六日右決定の取消しを求める訴を提起したところ、被告は同年九月一七日に右却下決定を取消して原告の審査請求を棄却する旨の決定をし、同決定は同月一八日原告に通知された。
三、しかしながら本件不動産のうち宅地の価格は金一、三三〇、五〇〇円が相当であるが、建物については、その買受価格老朽性等からみて金二、九六四、七五〇円が相当であるので合計金四、二九五、二五〇円と認定されるのが正当であるから、右決定の取消しおよび前記認定処分の変更を求める。
(被告の主張)
一、原告主張の一および二の事実は認める。
二、同三の事実は争う。登記官吏の認定価格は本件不動産のうち、
1 宅地 金一、三三〇、五〇〇円
2 鉄筋コンクリート造三階建病院 金三、六八一、五〇〇円
3 木造瓦葺二階建病院 金三、七一一、五〇〇円
(建物の価格合計金七、三九三、〇〇〇円)
であり、いずれも昭和三三年分の固定資産税課税標準価格に従つたもので、認定処分時の時価を上廻るものではないから、その認定処分には違法はない。したがつてこれを認容した被告の決定も適法である。
(立証)
原告は甲第一号証を提出し、鑑定人中村忠の本件建物の時価の鑑定の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。被告は乙第一号証、第二号の一ないし八、第三号証を提出し、証人舟橋準二の証言を援用し、甲第一号証の成立を認めた。
理由
一 原告主張の一および二の事実ならびに本件不動産のうち宅地の課税標準価格が金一、三三〇、五〇〇円であることは当事者間に争いがない。
二、本件不動産のうち建物の価格が本件の唯一の争点である。ところで登録税法二条一項三号にいう不動産価格とは同法の趣旨、規定の内容からみてその不動産の客観的価値をあらわす価格を意味するものであると解せられるから、以下本件建物についてこれを判断する。
成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一ないし八、第三号証および証人舟橋準二の証言によると、本件建物の昭和三三年分の固定資産税課税台帳登録価格が金七、三九三、〇〇〇円であつて被告主張の価格と同額であること、本件建物は訴外金子生が新築し昭和三二年一月一〇日取得したもので固定資産税課税台帳に登録されていなかつたため大阪府知事は同年二月一五日地方税法七三条の二一の二項により同法三八八条一項の「固定資産評価基準」によつて本件建物にかかる不動産取得税の課税標準となるべき価格を金七、三九八、三〇〇円と決定したこと、右価格の決定は評点式評価方法によつてなされ、現地調査および図面、見積書、清算書等により木造、非木造の各部分別に調査表を作成し、部分別評点算出表により各部分の評点を算出した上、これに補正係数を乗じて評点の補正を行ない、これに計算単立を乗じて部分別評点数を出し、これを合計したものに評点一点当りの価格を乗じて再建築費価格を算出し、これに経過年数、利用価値、地域差による修正をして建物の評価額を算出する方法であり、この方法によるときは比較的正確な数字が出ること、不動産取得税の課税標準額と固定資産税の課税標準額との間には金五、三〇〇円の差があり、その課税対象となつた木造建物の延坪数において二坪一勺の相違があることおよび原告が昭和三三年八月四日本件不動産を担保として商工組合中央金庫から貸付を受けるに際し同金庫が同年七月三一日調査した本件建物の査定価格は金九、〇二二、〇〇〇円であり、その七割にあたる金六、三一五、〇〇〇円を担保価格としていることをいずれも認めることができ、右認定に反する証拠はない。そうして本件建物の固定資産税課税標準の決定は地方税法四〇九条により大阪市の固定資産税評価員が右府知事から通知を受けた不動産取得税の課税標準としての価格があるのでこれに基づいて評価し、大阪市長がこれによつてその価格を決定し課税台帳に登録したことを窺い知ることができ、右固定資産税の昭和三三年分課税台帳登録価格は地方税法上適正妥当な時価というべきであり、これをもつてただちに登録税法における適正な価格とはなし得ないし、また前記認定処分時と不動産取得税課税標準額決定時との間に一年六箇月の隔りがあるとしても反証のない限り一応これを建物の客観的価格と認めなければならない。
これに反し、原告は本件建物の価格は金二、九六四、七五〇円(本件不動産全部の価格金四、二九五、二五〇円から争いのない宅地の価格金一、三三〇、五〇〇円を差引いた価格)が適正であると主張するが、その算出方法が明らかでなく本件全証拠によつてもこれを認めるに足りず、また成立に争いのない甲第一号証によれば、原告は昭和三三年九月一八日三宅通夫に依頼して本件建物の価格の鑑定を求めたところ、本件建物のうち、鉄筋建物は堅固の建築物としては低級度のもの、木造建物は古材を使用した粗雑な建物であり、室内外の壁面に無数の亀裂を生じ雨水滲透による汚損脱落があるのを認めたとして、同日現在の本件建物の価格を金五、〇九〇、五二七円とする答申がなされたことを認めることができるけれども、右答申は当時の一般取引相場を勘案してなされたもののようではあるが、木造建物の価格が前記固定資産税課税台帳登録価格や後記鑑定人中村忠の鑑定結果に照らし著しく低額に過ぎ、その答申自体から算出の根拠が明らかでなく、本件建物の当時の適正な価格であるとは認め難い。
しかしながら鑑定人中村忠の本件建物の価格の鑑定の結果によると、右鑑定人は鉄筋建物は普通の標準のものであるが陸屋根に損傷部位があり、木造建物は柱等全体的に古材を使用して建築され並建築とみとめられたとしていずれも減点し、再建築費に償却現価率を乗じた額から減点額を差引いて価格を算出し、昭和三三年八月当時の価格を推定してその価格を金六、四四四、〇〇〇円と鑑定していることが認められ、右鑑定は慎重になされており、特にこれを排斥すべき理由を見出すことができないし、さきに認定の諸事実を併せて考えると本件建物の適正な価格は金六、四四四、〇〇〇円と認めるのが相当である。したがつて本件認定処分は右価格を超える金九四九、〇〇〇円の部分において違法であり、これを認容した被告の決定は違法としてこれを取消すべきである。
よつて原告の被告に対する本訴請求(請求の趣旨二項は原認定処分を変更し一部取消しを求めるものと解した。)は右認定の限度において理由があると認めてこれを認容し、その他を棄却すべく、訴訟費用の負担について民訴九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前田覚郎 裁判官 田坂友男 裁判官 野田殷稔)
目録
大阪市生野区猪飼野東五丁目八番地の二
一 宅地 一六五坪八勺
同所同番地上、家屋番号同町第一六七番
第一号
一鉄筋コンクリート造陸屋根三階建病院一棟
建坪 一九坪二合五勺
二階坪 一九坪二合五勺
三階坪 一九坪二合五勺
第二号
一木造瓦葺二階建病院一棟
建坪 六七坪一合
二階坪 六八坪七合五勺 以上